AWSノウハウ
クラウド移行の失敗を防ぐ!
事例から学ぶAWSへの安全で効率的な移行戦略
- AWS入門
- AWS基礎知識
目次
AWSへのシステム移行は単なるインフラ基盤の移行ではなく、ビジネス全体を変革する戦略的な取り組みとして、多くの企業が進めています。しかし、AWSへの移行に失敗し、コストと時間を浪費してしまう企業も少なくありません。AWSへの移行で失敗しないようにするためにはどのような対策が必要なのか気になる方も多いでしょう。
そこでこの記事では、いくつかの失敗イメージから教訓を学び、組織のデジタル変革を成功に導くための実践的な指針について解説します。
AWSへの移行で失敗するケース
AWSへの移行プロセスは複雑であり、多くの企業がさまざまな課題に直面します。ここでは、クラウド移行における一般的な失敗のケースと、その根本的な原因について解説します。
コスト管理の失敗
AWSは従量課金制であるため、経営層と技術部門の両者にとって適切なコスト管理が重要です。管理が不十分な場合には、予想外にコストが増大する可能性があります。特に、開発環境や検証環境におけるリソースの管理が重要です。例えば、未使用のインスタンスや過剰なスペックによって、不必要なコストが生じる可能性があります。
このような問題を解決するためには、継続的なコストのモニタリングや適切なリソースサイズの選択、自動スケーリングの活用などが有効です。また、リザーブドインスタンスやスポットインスタンスをうまく利用すれば、コストの抑制につながります。
リソース設計の誤り
クラウド移行時のリソース設計は、システムの性能と効率性に直接影響を与えます。従来のオンプレミス環境で稼働していた設計をそのままAWSに適用すると、非効率的なインフラ設計や過剰なリソース構成となる可能性があります。これは、たとえオンプレミス環境に適した設計であっても、その設計は必ずしもクラウド環境に適しているわけではないからです。
リソースが過剰な場合はコストが増大するリスクがある一方で、必要なリソースが不足しているとシステムが過負荷状態になり、結果的にサービスが停止してしまう可能性があります。そのため、十分なリソースの確保と動的なスケーリング戦略が重要です。
クラウドネイティブな設計思想では、動的なスケーラビリティ、柔軟性、コスト効率などを重視します。マイクロサービスアーキテクチャ、サーバーレスコンピューティング、コンテナ技術などを適切に活用することにより、最適なリソース設計が可能です。
移行プロセスの不備
AWS移行プロジェクトにおいて、プロジェクト管理が不十分な場合、移行期間の長期化や予算の超過、システムの機能低下などといった深刻なリスクが生じます。また、移行プロセスに不備があると、企業の業務に深刻な影響を与えかねません。スムーズに移行させるためには綿密なプロジェクト管理が必要であり、おもに次の点に注意する必要があります。
- 詳細な事前調査
- 明確な移行戦略の立案
- 段階的なアプローチ
- ステークホルダーとの緊密なコミュニケーション
など
また、移行前の十分な検証、トラブル発生時に備えたロールバックの計画も重要です。例えば、移行直後にシステムの不具合やパフォーマンス低下が発生した場合、迅速なロールバックが求められます。しかし、切り戻し体制が十分に整っていないと、復旧に時間がかかり、結果としてサービスの停止や業務への大きな影響を招く可能性があるため、事前にスムーズな切り戻しが実行できる体制を構築しておくことも考える必要があります。
技術的な知識不足によるトラブル
クラウド環境は、従来のオンプレミス環境とは根本的に技術的特性が異なります。AWSへの移行においては、AWS特有の機能、最新のクラウドサービス、セキュリティ要件に対して十分に理解することが必要です。
技術的な知識の不足は、パフォーマンスの低下、セキュリティリスクの増大、非効率的な運用など、多岐にわたる問題を引き起こす可能性があります。技術的な課題に対しては、継続的な学習、認定資格の取得、クラウドコンサルタントとの協業が効果的なアプローチです。
セキュリティ設定の脆弱性
クラウド環境におけるセキュリティ管理は、より慎重に行なう必要があります。なぜなら、設定ミスなどにより、データ漏洩や不正アクセス、コンプライアンス違反のリスクを高めるからです。これらの問題は、企業の信頼性にも深刻な影響を与える可能性があります。
AWSセキュリティでは、IAM(Identity and Access Management)の適切な設定、責任共有モデルの正確な理解、多層防御の実装が重要です。また、セキュリティ設定や脆弱性について管理するために、AWS ConfigやAmazon Inspectorなどのサービスを活用するとよいでしょう。
AWSへの移行における失敗イメージから学ぶべき教訓
クラウド移行は複雑であり、思わぬ落とし穴が潜んでいます。AWSへの移行をスムーズに遂行するためには、よくある失敗を想定し、それに基づいて対応できるようにしていく ことが重要です。ここでは、いくつかの失敗イメージ をもとに移行の際に注意すべき点について教訓とともに解説します。
プロジェクトマネジメントの重要性
失敗イメージ
- 当初の見積もりではクラウドへの移行は1か月で完了予定だった
- 実際に初めて見ると想定より大幅にかかり、最終的に1年以上たってやっと完了した
- 原因はプロジェクトマネージャーのスキル不足
- システム担当者間調整ができておらず連携が取れていなかったり、目標や進捗をしっかり管理できていなかったため、ずるずるとスケジュールが伸びてしまった
クラウド移行におけるプロジェクトのマネジメントは、プロジェクトの成功をめざす際に最も重要となる要素の一つです。多くの企業が外部ベンダーに移行を委託した際に、プロジェクト管理の不備を起因とするスケジュール遅延と予算超過といった課題に直面します。効果的なプロジェクト管理には、明確な目標設定、着実な進捗管理、ステークホルダー間の連携、リスク管理の徹底が不可欠です。
事前調査と綿密な計画の必要性
クラウド移行の成功は、事前の綿密な調査と計画の立案にかかっています。クラウドの設計や構築の際に、度重なる見直しによって想定以上の時間を費やし運用開始が大幅に遅延するケースは少なくありません。
効率的な移行計画には、現行システムの詳細な分析、明確な移行対象の特定、包括的なリスク評価、精緻なコスト見積もりが含まれます。また、システムなどの技術的な側面だけではなく、ビジネス要件、組織文化、人的リソースなど、多角的な視点で計画立案を行なうことが重要です。
クラウド特有の運用モデルの理解
失敗イメージ
- 自社のエンジニアに想定される使用料の計算を依頼
- 想定されるコストは許容範囲であったためクラウド移行を決断
- 移行は成功したが、月々の使用料が想定を大幅に超える形に
- 一般的にオンプレミスではあまり考慮されない、インバウンド、アウトバウンドの利用料やデータ使用料が考慮外だったことが原因
AWSへの移行後に直面する一般的な課題の一つは、利用料が予想を大幅に上回る問題です。この問題は多くの場合、オンプレミスとクラウドにおける運用モデルの根本的な違いについて理解していないことに起因します。
従来のオンプレミス環境をそのままAWSへと移行するようなアプローチは、クラウドの柔軟性とコスト効率性を活かせません。クラウド特有の動的なリソース管理、自動スケーリング、従量課金モデルについてよく理解し、最適な運用モデルを設計することが成功への秘訣となります。
段階的な移行アプローチ
失敗イメージ
- 自社にも多少は知見があるエンジニアがいたのと、切り分けが難しい複数のサービスが動いていたこともあり、全サービスを一括でクラウド化することに
- 結果、一部のシステムは正常に動いたものの、一部は原因不明で動かないという状況に
- 原因調査と解決するにはエンジニアの知見が足らず、復旧までの多くの時間を要した
大規模かつ複雑なシステムを一度に移行する場合、多くのリスクをともないます。はじめからシステム全体の移行や難易度の高い要件を実現しようとして失敗するケースは少なくありません。そのため、スモールスタートで段階的に移行する方法がおすすめです。
特にクラウドへの知見が不十分な場合は、比較的単純でリスクの低いシステムから移行を開始し、徐々に改善を重ねながら段階的に移行を進めましょう。徐々に移行範囲を拡大することにより、移行プロジェクトの成功確率が高まります。
AWSではクラウド移行とその後の運用までの道のりを4つのステップと7つの移行パターン(7R)に分類しています。段階的な移行にも役立てられるため、これらを参考に進めましょう。
より詳しくは、こちらの記事で解説しています。
「クラウドジャーニーとは?AWSが提案する4ステージと成功に導くためのポイント」
継続的な最適化の重要性
クラウド移行は一度限りのイベントではなく、継続的な最適化プロセスです。新しいAWSサービスや最新の技術トレンド、変化するビジネス要件に応じて、アーキテクチャ、コスト、パフォーマンスを定期的に見直し、最適化することが求められます。
単純に既存のオンプレミス環境をそのまま移行する「クラウドリフト」では、クラウド環境の利点を十分には活かしきれません。クラウド移行によって目指すべき到達点は、クラウドネイティブな設計を目指す「クラウドシフト」へとつなげることです。そのためには、単発の移行イベントとして終わらせるのではなく、継続的な最適化が不可欠になります。
ただし、クラウドリフトそのものが悪い・不必要なもの、というわけではありません。企業や組織の環境・状況によっては、クラウドリフトが最適な場合もあることに注意しましょう。
クラウドリフトとクラウドシフトについては、こちらの記事で詳しく解説しているため、併せてご覧ください。
「クラウドリフトとクラウドシフトの違いとは?自社に適した移行方法を選ぶための基礎知識」
AWS移行における主要なリスクと対策
AWSへの移行では、さまざまな技術的・運用的な課題に直面します。AWS移行におけるこれらのおもなリスクとその対策について理解を深めることにより、AWSへの移行を成功へと導くことができるでしょう。
データ移行時のリスク管理
データ移行は、クラウド移行プロジェクトにおける最も繊細かつ重要な工程の一つです。大量のデータを安全かつ効率的に移行するためには、周到な事前計画と戦略的なアプローチ、適切なツール選定が重要となります。
AWSでは専用の移行サービスが充実しています。例えば、クラウド内外の大量データを移行する際に利用するAWS Snowballや、データベース・サーバーの移行に用いられるAWS Database Migration Servie・AWS Server Migration Serviceなどです。AWSの移行サービスは、最小限のダウンタイムで大規模なデータ移行を行なうとともに、データの整合性と安全性を確保します。
また、移行サービスの活用に加えて、移行前のデータ分析、移行戦略の立案、移行後の検証プロセスを慎重に設計することが、データ移行を成功へと導く鍵となります。
パフォーマンス低下の防止
クラウド移行後に生じるパフォーマンス低下は、多くの企業が直面する重大な課題です。この問題を解決するためには、適切なリソース設計とスケーリング戦略が重要となります。AWSでは、システムの利用状況に応じた最適なインスタンスタイプの選択、Auto Scalingの戦略的な活用などが有効です。
また、ロードバランサー(ELB)を適切に設定することにより、パフォーマンスの最適化につながります。その他、継続的なモニタリングとパフォーマンス分析ツールの活用もおすすめです。リアルタイムでシステムの状態を把握し、最適化への迅速な対応が可能となります。
ネットワーク接続の信頼性確保
クラウド環境におけるネットワーク接続の信頼性は、システム全体のパフォーマンスと可用性に直接的な影響を与えます。複数のアベイラビリティゾーンにまたがるネットワーク設計を行なって冗長性を確保し、適切な帯域幅を設定することが重要です。AWS Direct Connect、Transit Gatewayなどのサービスを活用することにより、高速かつ効率的な接続を実現できます。
また、定期的なネットワーク診断とパフォーマンステストを実施して、ネットワークにおける潜在的な問題を事前に特定し、対策を講じることが可能です。
コンプライアンスとセキュリティ対策
オンプレミス環境からクラウド環境への移行にともない、コンプライアンスとセキュリティの対策も大きく変化します。例えば、データの暗号化や厳格なアクセス制御、定期的なセキュリティ監査などが求められます。AWS Configによるリソース設定管理、Amazon Inspectorによる脆弱性評価など、AWSが提供する豊富なセキュリティサービスを効果的に活用することが重要です。また、AWS WAFとAWS Shieldを併用すれば、包括的なセキュリティ対策だけでなく、業界特有のコンプライアンス要件への対策も講じることができます。
障害対応と事前継続計画
クラウド環境においても、障害発生時の迅速な対応と事業継続の対策は重要な検討事項の一つです。マルチリージョン構成、自動バックアップ、ディザスタリカバリ(DR)戦略の策定などにより、有事の際でも事業の継続が可能な環境を構築することができます。AWS提供の各種サービスを活用し、システムの冗長性と復旧性を高めることが、リスク管理においては重要です。
AWSへの移行に失敗しないために押さえておくべきポイント
AWSへの移行は単なる技術的な作業ではなく、企業の戦略的な変革プロセスの一環としてとらえる必要があります。システム担当者がAWSへの移行を着実に遂行するために、押さえておくべきポイントについて解説します。
明確な移行目的の設定
AWSへの移行において、具体的な目標設定により成果を明確にすることは、プロジェクトの成功を左右する重要な要素の一つです。トータルコストの削減、システムの柔軟性向上、セキュリティの強化などについて、定量的に評価可能な目標を明確に定めることが重要となります。組織全体で移行の目的を共有し、目標とすべき具体的な指標を設定すると、プロジェクトの方向性が明確となり、全社的な合意形成が促進されます。また、これらの目標は、移行プロセス全体を通じて継続的に評価し、必要に応じて調整する必要があります。
経営層の理解と支援
クラウドへのシステム移行は組織全体に影響を与える戦略的な決定であり、経営層からの積極的な支援が不可欠です。移行の目的や期待される効果、投資対効果などを明確かつ丁寧に説明し、デジタル変革戦略の重要な一環として理解を得ることが求められます。経営層の理解度は、プロジェクトの推進力や適切な予算配分、組織横断的な協力体制の構築などに直接的な影響を与えます。また、長期的な視点からもクラウド戦略の意義を説明し、経営層も含め一丸となってプロジェクトを推進することが重要です。
専門家との協業
AWSへのシステム移行は高度な専門知識を要するため、社内にノウハウが不足している場合には、AWSパートナーや専門コンサルタントとの協業を検討しましょう。外部の専門家が持つ知見を活用することによって、移行作業の潜在的なリスクを軽減し最適な移行戦略の立案が可能です。特に、複雑なシステム環境や業界特有の要件がある場合、専門家のサポートによって移行プロセスの効率性と信頼性が大幅に向上するでしょう。
移行ツールと自動化の活用
AWSへのシステム移行では、移行の効率化と作業のリスク軽減のために、AWSが提供する移行ツールや自動化サービスを積極的に活用することが重要です。AWS Database Migration ServiceやAWS Server Migration Serviceなどの移行ツール(サービス)などを活用して、移行作業の自動化と効率化を図り、人的エラーのリスクを最小限に抑えられます。これらのツールは、データの整合性確保やダウンタイムの最小化、移行プロセスの透明性向上にも大きく貢献します。
運用設計とモニタリング体制の構築
オンプレミス環境とクラウド環境の運用モデルは大きく異なるため、移行後の運用を見据えた設計とモニタリング体制の構築が重要です。Amazon CloudWatchなどの高度なモニタリングツールを積極的に活用すれば、システムのパフォーマンスやセキュリティ、運用コストを継続的に監視することが可能で、システムの安定性と効率性を保持できます。また、モニタリングツールの活用により、リアルタイムでのパフォーマンス分析や、インシデントなどが発生した際の迅速な対応にも効果的です。
柔軟な対応と継続的な最適化
クラウドへのシステム移行は、継続的な最適化プロセスでもあります。市場の変化や技術の進歩、ビジネス要件の変更などに応じて、クラウド設計の柔軟な調整が重要です。定期的な評価と最適化により、クラウドが持つ潜在的な価値を最大限に引き出し、企業競争力を維持・向上することができます。
AWSへの移行に失敗しないためにCloudCREWにご相談ください!
AWSへのシステム移行を成功させるためには、クラウド特有の知識・スキルだけではなく、AWSに関する知見や運用・保守、セキュリティまでを網羅する高度な専門知識が求められます。システム設計から運用まで、従来のオンプレミス環境とは異なりクラウド環境に最適化された設計が欠かせません。しかし、急速に進歩し続けるIT環境に対応できる人材が不足している企業は多いのではないでしょうか。
CloudCREWは国内シェアNo.1のITインフラ事業を展開するGMOインターネットグループのメンバーです。AWSパートナー、Google Cloudパートナーであり、クラウドのプロフェッショナル集団としてクラウド導入支援から運用まで、ワンストップで対応します。セキュリティ面でも、高精度の診断技術を有するセキュリティエンジニアと提携し、セキュリティ支援サービスを提供しています。
CloudCREWはクラウド運用のあらゆる課題を解決するあなたのベストクルーです。AWSへのシステム移行に不安がある場合には、ぜひ一度お問い合わせください。
まとめ
いまや多くの企業がAWSへのシステム移行を進めていますが、なかなかうまく進められない、というケースは少なくありません。AWS移行にはさまざまな課題があり、移行を成功へと導くためにはこれらの課題と解決策について理解しておくことが重要です。
この記事では、AWS移行におけるさまざまな課題とその解決策について多面的に解説しました。AWS移行を検討されている場合には、この記事の内容を参考に進めてみてはいかがでしょうか。もしも不安が残る場合は、CloudCREWが移行のお手伝いをさせていただきますので、ぜひ一度お問い合わせください。
GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社が運営するCloudCREW byGMOでご紹介する記事は、AWSなど主要クラウドの認定資格を有するエンジニアによって監修されています。